レジャー白書2023分析/人口減少社会の今後を考えましょう

 レジャー白書2023が発表されました。ゴルフ人口は本当は何人かといった話は、取り敢えず置いておくとして、長く日本の余暇を追ってきたレジャー白書から見たゴルフマーケットのトレンドを改めて確認しておきたいと思います。今更ですが、“えッ、やっぱりそうなんだ”という感を強くしました。他のスポーツとの比較ができるいつもの表は、原稿の最後に載せてあります。
 最初にお見せするのは1985年以降のゴルフコースとゴルフ練習場の人口と日本の総人口の動きです。

 どうでしょうか? 実は個人というか、もちろん仕事の関係ですが、レジャー白書とのお付き合いは昭和50年代前半頃からで、当時の発行担当者であった余暇開発センター関係者(既に故人ですが)には、いろいろ教えていただきました。ところで、あやふやな記憶では、ゴルフ人口は、レジャー白書が初めて取り上げ、データとしては昭和50年代前半頃から発表されていたと覚えています。元の職場に行けば残されているはずですが、手元には1985年(昭和60年)からのデータしかありません。それ以前はパソコンを持っていなかった(?)ような気もします。ま、そういうことで1985年以降のゴルフ人口の推移と日本の人口を比べてみると上図のようになります。

 日本の人口が減少しているのは事実で、何度も文字にしていますが、改めて見ると2008年がピークで、15年も前から人口減少社会が始まっていたと、ちょっとした驚きを感じました。そして今年、65歳以上の高齢者の人口が初めて減少したと報じられました。ゴルフ人口の推計は、どの調査でもアンケート調査で算出された参加(実施)率を対象人口に掛けて推計値が出されています。仮に、参加率が現状維持なら推計されるゴルフ人口は、人口減少社会にあっては必ず減少します。日本の人口の減少率をカバーするゴルフ参加率のアップが実現できない限りゴルフ人口は減少します。

 ゴルフ人口という数字の一方にゴルフ場の利用者数があります。ゴルフ場利用者数はゴルフ場利用税徴収の副産物として唯一業界が把握できるほぼ実数の数字として市場規模推計の力強いデータとなっています。

 よくいわれるゴルフ場マーケットの推計計算式は

ゴルフ人口×1人平均ラウンド回数×平均費用=プレー関係市場規模

 細かくは年会費や食事などの費用が発生しているわけですが、上記の計算式では(ゴルフ人口×平均ラウンド数)は、ゴルフ場利用者数ですから、一般社団法人日本ゴルフ経営者協会(NGK)がまとめるゴルフ場利用税から見たゴルフ場利用者数で計算式としては代用できます。しかし、ゴルファーの実態を把握するためには、ゴルフ人口の把握なしでは正しい判断は難しいと思います。人口が把握できなければ、ゴルファーの平均ラウンド回数は不明のままですし、一部のゴルファーを対象にしたメーカーのアンケートなどでは結果の偏りが十分予見されますから、不十分と言わざるを得ません。ということで、いくつものゴルフ人口が登場しますが、ゴルフ人口の把握は十分な必要性があるわけです。

 さて、人口減少社会の登場、少子高齢化といった構造的な大変革が日本社会に起きているわけですから、過去との比較はあまり意味を持たなくなっています。過去、こんなに凄かったといったところで、時間は戻せません。時間は存在しないという面白い話はあるのですが、ここは常人の感覚で、少なくともゴルフ市場は過去には戻れません。が、我々がいま体験している事実について正しく認識しておくことは大事だと思います。人口増加を上回るペースでゴルフ人口が増加したのは、いわゆるバブル経済の崩壊までです。改めて図にして感じた(勘です)のは、バブル経済が崩壊したとされる1991(平成3)年にゴルフ練習場の人口がピークを迎え、以後、図にあるように時々山が登場しますが、減少を続けています。ゴルフコース人口は遅れること3年、1994(平成6)年の1370万人をピークに、2022年は510万人でしたから、ピークの4割にも満たない人口へと縮小しています。という経過は皆さんはご存じだと思いますが、ゴルフ練習場の人口が日本経済の動きに敏感に反応し、崩壊と同時に減少に転じて、ゴルフコースの人口が後追いをしている点は、現在の日本の社会構造の変化を考えると、次代の動きを予感させるようで気になるのです。以前、生意気にマーク・トウェイン(が言ったとされる)の「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」という言葉を紹介しましたが、まったく同じ状況は起きないが、似た状況は起こる、という勘働きというか、最近のゴルフ練習場とゴルフコースの人口の変遷は、今後を想像させるのです。と書きながら、新型コロナ禍の中で再認識されたゴルフの効用、ウェルネスという新しい価値観を考えるとゴルフの持つ力に期待したいですし、結果としてゴルフ人口が増加するのではと思いたい、のです。そのためには、ゴルフをする人が何を求めているのか、たぶん、ゴルフが上手くなりたいだけでなく、ゴルフを通じて、例えば健康を維持したいとか、対人関係を良好にしたいといったゴルファーに限らず個人の幸福(ウェルネス)に対する明確化できていない「認識していない問題」の解決に、ゴルフがどう寄与できるかを、ゴルフを提供する側の、例えばゴルフ場が気づき、ゴルファーやゴルファー予備軍に提供していただきたいと思うのです。これマーケティング4.0とかいわれている視点だと思うのです。日本のような成熟社会では大事です。

1.ゴルフ人口の推移を詳しく

 レジャー白書のデータから、直近の過去10年間のゴルフ人口の動きを図1にまとめました。ゴルフ人口で申し上げたいことは、長々と書きましたからあえて数字で書くことは多くありません。こう変化していますよ、少なくとも2022年は底です。底を打ったとは言えませんということです。

 図2は、一部データを省いていますが、1985年以降のゴルフコース人口と練習場人口の関係を線で結ぶとこんな関係になりますという図です。この図から分かるのは、説明変数R2が0.9327と非常に強い正の相関を説明しているように、どちらか一方、ゴルフコース人口が増えれば、必ずと言っていいほど練習場人口は増える関係にあるということです。現状で考えると、どちらかの人口が減少していれば、必ず他の人口は減りますよという警鐘です。バブル崩壊前の人口増を冒頭に紹介しました。昭和60年前後のゴルフ練習場は時間待ちの顧客で一杯でした。鳥かごの小規模な練習場ではなくて、大型練習場やデパートの屋上に設けられた練習場はおじさんだけでなく、女性であふれていました。その状況を表したのがゴルフコース人口を大きく上回る当時の練習所人口です。「歴史の韻」を感じられれば、ゴルフは再興するのでしょう。期待するところはここです。

 ゴルフ参加率のグラフです。改めて説明する必要もないと思いますが、参加率のことを先にも書きましたが、少なくとも参加率の低下を止めないとゴルフ人口の増加はあり得ません。ゴルフ人口の推計値は参加率の掛け算ですから、十分お分かりいただけると思います。

2.利用回数の変化

 図4は年間の平均活動回数です。ゴルファーを顧客という点で考えると、1人のレジャーに使える時間には限りがありますから、際限なくラウンド回数が増えるという想定はできません。1日24時間をどう分配するかという問題設定です。ゴルフは比較的長時間の拘束を伴いますから、ゴルフに割ける時間の確保はゴルファーにとって大きな問題であるはずです。21年の29.7回はコロナ下での一種の異常値と考えられます。多くのゴルファーにとって唯一ゴルフしか選択肢がなかったわけです。ところがウィズコロナ時代は選択肢が元に戻っています。旅行需要はほぼコロナ前に戻り、室内という閉鎖環境ゆえに大きな影響を受けたフィットネスは、ライザップの時間のコマ売りというか短い時間の利用という生活時間の隙間を使うビジネスモデルの提案に現れているように、顧客目線で問題解決に取り組んでいます。仕組みとしての、顧客の目標設定と個人の継続をバックアップするシステムがポイントだと思いますが、カギはマーケティング力でもあり、これはゴルフにも求められている要素だと思います。

3.ゴルフ費用はどう変化している

 次の課題は費用です。ゴルフも経済活動ですから、社会構造と関係してしまいます。年間のゴルフに使われる金額が増えることは望ましいのですが、経済問題とリンクしますから変化を読み取ることは大切です。気になる個人所得の伸びがどうなるかだけでなく、費用の高額化は必然的にゴルフが顧客を選別することになります。顧客のセグメントが大事といわれますが、高額化が進むと、ゴルフを楽しめる顧客がゴルフからセグメント(選別)されてしまうことになります。デフレ経済からの脱出が日本の課題ですが、デビッド・アトキンソンさんのいうようにまず給与を上げることで日本経済を活性化できればいいのですが、モノの値段だけが上がったのでは消費は選別されます。ゴルフについていえば、費用が先行して増加すると、大衆化に逆行して富裕層のゴルフになってしまいます。自分からマーケットを狭くすることにもつながりますから、価格政策は今まで以上に重要になります。
 ただ、1回当たりの費用のグラフで分かるように費用の低価格化の傾向は続いています。ゴルフ人口が増えないことを想定すると、この傾向が維持されないと人口の減少に歯止めがかからないことになると思われます。このように考えてくると、個別ゴルフ場の営業政策だけでなく、ゴルフ業界としての市場政策というか市場経営という視点が必要な気がします。といっても自由経済ですからコンセプトの共有くらいですかね。

4.金額ベースでの市場規模

 最後に、主要産業(ゴルフコース、練習場、用品)の市場規模をまとめたグラフです。GDPがついにドイツに抜かれて世界4位になった日本です。ゴルフの金額ベースでの市場規模も、持ち直してきているだけに現状維持の予想ですかね。