私たちは、ゴルフに対するお客さんの「ロイヤルティ(信頼)」が、大きく揺らいでいる時代に生きています。人々はスマホをスワイプするように簡単に選択するブランドを変え、流行は一晩で移り変わり、企業の寿命もどんどん短くなっています。お客さんとブランドとの関係は、昔と比べて大きく変わってきており、一度つかんだロイヤルティも簡単に失ってしまうという現実に生きています。
こうした中で、ゴルフ業界は少し不思議な状況に直面しています。ゴルフの人気が高まり、売り上げも伸び、プレイヤー層も広がっている中で、NGFの調査によると、多くのコアゴルファーは「ただの客」として扱われていると感じているのです。つまり、ゴルフ業界とゴルファーの関係が「表面的関係性」にとどまっていて、ゴルファーに「ちゃんと認められていない」、「大切にされていない」と思われているのです。これは、「人とのつながりを大事にする産業」としてのゴルフのイメージとは、大きく食い違っていると言えます。
この矛盾が起きた背景には、ゴルフが倶楽部中心の状況から、1,000億ドル規模の大きなビジネスへと進化してきたことにあります。その中で、ゴルフ用具の性能やコースコンディション、スコアアップといった「目に見える成果」が重視され、商業的な価値を追い求めるようになったからのようです。こうした流れの中で、多くの新しいビジネスチャンスが生まれ、ゴルファーの体験も向上しましたが、一方で「人との関係性(絆)」といった見えにくい部分がおろそかになってしまったのです。
実際、私たちの調査でも、この“人間関係の脆弱さ”はハッキリと見えています:
・去年、コアゴルファーのうち半数しか、倶楽部やコースで「自分は特別な扱いをされている」と感じた経験がありません。
・ゴルファーの3人の内1人しか、よく通うコースのスタッフが自分の名前を覚えていないと答えています。
・記憶深いゴルフブランを答えられた人は、5人に1人でした。
そして特に注目すべきは、2022年のNGF調査で、経営陣の50%が「ゴルフ業界は顧客との関係づくりのイノベーションで他の業界に遅れている」と認めていたことです(「先行している」と答えたのはわずか11%でした)。
要するに、ゴルフ業界は「技術的な体験」を充実させることには多くの投資をしてきましたが、「人とのつながり」という面では十分な努力ができていなかったのです。
NGFも、自分たちがこの現状をつくる一因であったことを認識しています。これまで、私たちが追ってきたデータは「何回プレーしたか」、「道具がどれくらい売れたか」、「施設の業績」など、数字で測れる“取引”情報が中心でした。でも、「ゴルファーがどれだけゴルフに夢中になっているのか」といった感情的なつながりについては、あまり重視してきませんでした。これからは、こうした「感情」にも目を向けていきたいと考えています。それによって業界の持続可能性を高め、将来の不況や変化にも強い体制を作る助けになると思っています。
お客さんの期待がどんどん進化していく中で、「人とのつながりをつくること」が、これからのビジネスで最も見過ごされている“新しいイノベーション”の領域になるでしょう。特に、製品の差がつきにくく、技術力だけでは勝負が難しい今のゴルフ業界では、しっかりとした関係性を築くことが大きな強みになります。
私たちは今後の研究でもこのテーマを深掘りし、「商品」ではなく「信頼」を育てることこそが、ゴルフの次の大きな勝負になると信じています。
主任研究員:デビッド・ロレンツ
Reprinted with permission of NGF