前回の記事では、ゴルフ業界に潜む根本的な断絶について取り上げました。人間関係を大切にするはずのこの業界が、意図せず商業主義に傾いてしまったこと。そして私たちの調査によれば、多くの顧客が「自分が過小評価されている」と感じていることが明らかになりました。
ロイヤルティプログラムは、こうした関係性の欠如に対する明快な解決策として、しばしば取り上げられます。確かに、上手く設計すれば大きな価値を生むものです。しかし、裏を返せば、こうしたアプローチは結局、「ディール重視」の視点から抜け出せていないとも言えます。つまり、ポイントや特典に頼らずともロイヤリティを築ける、より効果的かつ感情に訴える手法を見落としているのです。
今、ゴルフ界の視線がオーガスタに集まる中で、マスターズ・トーナメントは、公式なロイヤルティプログラムを持たずに熱烈なファンを育んできた好例といえるでしょう。この現象は、私たちの議論をさらに前進させる材料となります。今週の祭典(マスターズ)を支える要素の中から、観客としての私たちに深い満足を与える二つのコンセプトを取り上げてみました。
損して得とる
オーガスタの名物、低価格の売店は、ロスリーダー戦略の力を端的に示しています。たとえば、ネスプレッソの1ドルコーヒーマシンや、コストコの1.50ドルのホットドッグコンボのように、利益を度外視した価格設定は、顧客に強い好印象を与え、ブランドへの信頼感を築く要因となります。
最近では、コースタル・カロライナ大学がこの戦略を全面的に採用し、今年秋のフットボール試合で売店を完全無料にすると発表しました。大胆な試みですが、それに見合うリターンとして観客数の増加とファンの絆の強化を見込んでいます。しかも、売店の利用には大学の新アプリを通じたエンゲージメントが必要となるため、貴重なファンデータの収集を可能にしています。
とはいえ、ロスリーダー(損して得取れ)の真の強みは、単なる価格メリットの提供ではありません。顧客にとってそれが「意味ある儀式」になるとき、ブランド体験の一部として心に残り、何度も戻ってきたくなるような効果を生みます。ビーバークリーク・リゾートがスキーヤーに温かいクッキーを、ファイブガイズがピーナッツを無料で配っているのも、こうした感情面での価値形成が背景にあります。
もちろん、価格のインパクトだけでロイヤリティは築けません。大切なのは、それらがどれだけ顧客体験と自然に結びついているか。寒いゲレンデでのクッキー、サロンでのシャンパン。それらはただのサービスではなく、「ありふれた瞬間を、思いがけない喜びへと変える」仕掛けなのです。人は金銭的価値はすぐに忘れても、そうした喜びの感情は長く心に残ります。
一貫性:最も過小評価されている力
ロイヤルティに関する文献全体からワードクラウドを作ると、「一貫性」という言葉が圧倒的なワードとして浮かび上がり、他の言葉はすべて脚注のように見えるかもしれません。それほど、このキーワードは重要です。
ビジネスの現場では、斬新さやイノベーションに目が行きがちですが、人間関係の研究では、ロイヤルティの本質は「一貫性」にあると繰り返し示されています。そしてオーガスタのマスターズ・トーナメントは、この原則を完璧に体現しています。アザレア、グリーンジャケット、そして物悲しいテーマソングなど、すべてが「変わらない」ことへの価値を印象づけています。
一貫性の効果は非常に強力です。それにより、顧客は警戒心を解き、心理的な安心感を得ることができます。これは、どんな取引やポイント制度でも代替できません。
たとえば、テレビ番組『サバイバー』では、20年以上にわたり司会者の決まり文句が繰り返されています。それが視聴者の安心感となり、熱狂的な支持につながっています。ファストフードチェーン「チックフィレイ」もまた、すべての接点でこの一貫性を極めることで、圧倒的なロイヤルティを築きました。
一貫性の力は、五感への刺激と組み合わせることでさらに強まります。高級ホテルチェーンが、世界中どこでも同じ香りを漂わせるのもこのため。嗅覚は感情や記憶に直結するため、深い心理的効果をもたらすのです。
プログラムの将来を見据えて
ゴルフ業界における顧客関係構築の課題を見つめ直すなかで、私たちはあらためてこう感じています。真のロイヤルティは、ポイント制度や割引ではなく、顧客の感情的ニーズに応える深い体験によって生まれるのだと。
企業に求められているのは、「ロイヤルティプログラムが必要かどうか」ではなく、どのようにして独自の歓迎の儀式や、タイミングを見計らった心地よい瞬間を作り出すかということです。それによって、他とは違う関係性を築き、より熱心で忠誠心の高いファンを獲得することができます。
Reprinted with permission of NGF