はじめに

ゴルフを始めたばかりの人や、力の弱い人にとって、ボールが空中を飛ぶ距離(キャリー)よりも、地面を転がって進む距離(ラン)のほうが頼りになります。いわば「転がってなんぼ」。それが、へたっぴなりの工夫であり、身体能力に合ったプレースタイルです。

でも、池や谷を越えなければならないホールでは、転がりは通用しません。空中でしか越えられない設計は、そうした人たちにとって“鬼門”そのものです。

USGAが語る「キャリーの意味」

米国のゴルフ協会(USGA)は、The Impact of Forced Carries on Different Types of Golfers(September 05, 2025)で、Forced Carries「空中で越えなければならない距離(キャリー)」が、どんな人にとってプレー不能になるかを、データで示して関係者の理解を求めています。

たとえば、100ヤード以上のキャリーが必要なホールでは、すべての女性ゴルファーではないにしろ、初心者を含め前に進めなくなってしまいます。これは、プレーヤーの技術の問題ではなく、コース設計の問題だとUSGAは指摘しています。

日本では、なぜ弱者の気持ちが言葉にならないのか

日本でも「女性ゴルファーを増やしたい」「高齢者にも楽しんでもらいたい」という声はよく聞かれます。けれども、その願いに応える設計上の工夫や配慮について、きちんと説明している言葉をあまり見かけません。

どんな設計が、どんな人にとって難しいのか──
そのことをまず言葉にする必要があります。その上で、ゴルフコース側がどう判断するかを考えるべきなのです。

「Tee It Forward(もっと前のティーからプレーしよう)」という考え方もありますが、なぜそれが必要なのか、どんな人にとってどれくらいの「キャリー」が適切なのか、そういった設計の根拠や考え方を説明する記事はほとんど見当たりません。だからこそ、「とりあえずティーを前に出せばいい」という表面的な対応にとどまってしまうのではないでしょうか。デザイン的にも間違いのもとです。

コース設計を言葉にするということ

コース設計の考え方は、誰にでも分かる言葉にしなければ共有できません。「キャリー」という言葉も、ただの飛距離の一部ではなく、誰が前に進めて、誰が進めないかを左右する設計上の重要な要素です。スコアカードのホール距離表示だけでは、その意味は伝わりません。

USGAは、それをデータとともに説明し、「こういう設計では、特定の人がプレーできなくなる」と明確に伝えています。こうした発信があるからこそ、設計者や運営者が「気づき」に気づくきっかけになるのではないでしょうか。

おわりに

「女性ゴルファーに配慮を」「高齢者にももっと楽しんでもらおう」と言うのであれば、まずはどんな設計が、どんな人にとって難しいのかを、きちんと言葉にする必要があります。

USGAのような発信は、ゴルフという空間を、もっと多くの人にとって開かれたものにするための、業界関係者への静かな問いかけです。ゴルフメディアも、ゴルフ業界の繁栄を願うのであれば、利用者の身体感覚に寄り添った発信がもっとあっていいのではないでしょうか。

USGAの記事は:The Impact of Forced Carries on Different Types of Golfers